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旅行会社の「契約拒否」はどこまで許される!?正しい解釈と実務対応(約款第7条)

2026年4月7日

旅行業を営む上で、避けて通れないのが「お客様を選定できるのか」という問題です。特に近年、過度な要求を繰り返すカスタマーハラスメント(カスハラ)や、反社会勢力への対応が厳格化される中、募集型企画旅行における「契約締結の拒否」の基準を正確に理解しておくことは、円滑な現場運営に不可欠です。

今回は、標準旅行業約款(募集型企画旅行契約の部)第7条に基づき実務上のポイントを整理します。

1. 「契約自由の原則」と旅行業の特殊性

日本の法律の基本原則には「契約自由の原則」があります。本来、どの企業も「誰と契約するか、あるいはしないか」を自由に決める権利を持っています。

しかし、公共性の高い電気・ガス・水道などのインフラ事業とは異なり、旅行業は競合他社も多く、旅行者が自由に業者を選択できる環境にあります。そのため、旅行業者には原則として「契約締結の義務」はありません。約款に規定がなくても、本来は任意の理由で拒否できるのが法理ですが、実務上はトラブルを避けるため、約款第7条に具体的な拒否事由を列挙しています。

2. 契約を拒否できる具体的な8つのケース

約款第7条では、主に以下のケースで契約を締結しないことができると定めています。

  • 条件不一致と定員超過: 性別、年齢、資格などの参加条件を満たさない場合や、既に募集定員に達している場合です。

  • 団体行動の妨げ: 他の旅行者に迷惑を及ぼしたり、ツアーの円滑な実施を妨げる恐れがある場合。

  • 決済能力の欠如: 通信契約において、クレジットカードが無効であるなど、代金の決済ができない場合。

  • 反社会勢力の排除: 暴力団員、暴力団関係企業などの反社会的勢力であると認められる場合。

  • 不当な要求行為: 暴力的な要求や、法的な根拠のない不当な要求、脅迫的な言動が行われた場合。

  • 信用毀損・業務妨害: 虚偽の風説を流布したり、偽計や威力を用いて会社の信用を傷つけ、業務を妨害した場合。

  • その他業務上の都合: 上記に当てはまらないものの、合理的な理由がある場合。

3. 【実務の要点】「ブラックリスト」への対応

実務で最も悩ましいのが、過去にトラブルを起こした「要注意顧客」からの申し込みです。 約款第7条(3)号の「妨げる恐れがあるとき」や、(8)号の「業務上の都合」がこれに該当します。解説によれば、必ずしも過去に具体的な問題行動があったという証拠がなくても、申し込み時の言動から円滑な実施が困難だと判断されれば、拒否は可能です。

特に、過去に些細なことで執拗なクレームを繰り返し、解決に多大な労力を要した旅行者に対し、「再度同様のトラブルが懸念される」という理由は、拒否の正当な根拠となり得ます。

4. 観光庁の指針とコンプライアンス

ここで、公的な指針にも目を向けてみましょう。観光庁が公表している「旅行業におけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」や、モデル約款の改定の動きでは、従業員の安全確保と他のお客様の利益を守ることが強調されています。

参考情報: 観光庁では、旅行業界におけるコンプライアンス遵守のため「標準旅行業約款」を告示しています。また、暴力団排除条例に基づき、契約書面への暴排条項の導入を強く推奨しています。 出典:観光庁「旅行業法に基づく標準旅行業約款」/ 警察庁・都道府県暴力団排除条例関連資料

5. さいごに

契約拒否は「正当な理由」があれば法的リスクは低いものの、伝え方には細心の注意が必要です。現場で「契約自由の原則」を盾に高圧的な対応をすれば、それ自体がSNSでの炎上リスクや新たなクレームを招くからです。

「弊社の規定(約款第7条)に基づき、誠に恐縮ながら今回はお引き受けいたしかねます」と、約款という客観的なルールに基づいた説明を行うことが、現場を守る最強の武器になります。

  • この記事を書いた人

Kazuto Sato

観光法務のスペシャリスト(行政書士有資格者) ■ HIS・外資系旅行会社・海外現地法人での実務経験10年以上 ■ 観光業に特化した法務アドバイザーとして活動中 「現場を知るプロ」として、民泊・旅行業・宿泊業の複雑な手続きや法令を分かりやすく解説。事業者の不安を「安心」に変える実務直結型のサポートを提供します。

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